グローバルな経済活動が一般的になる中で、国外で得た所得に対する課税の問題は、多くの事業者や個人にとって重要な関心事となっています。
特に、日本と海外で二重に税金が課される「二重課税」は、国際的なビジネスや投資を行う上で大きな負担となります。
この国際的な二重課税を調整し、納税者の負担を軽減するために設けられている制度が「外国税額控除」です。
本記事では、外国税額控除の基本的な仕組みから、メリット・デメリット、確定申告の具体的な手続きに至るまで、専門家の視点から網羅的に解説します。
制度を正しく理解し、適切に活用するための一助となれば幸いです。
目次
外国税額控除とは?

外国税額控除とは、国外で得た所得(国外源泉所得)に対して、その国で所得税に相当する税金を納付した場合に、その金額を日本の所得税額から差し引くことができる制度です。
この制度の主な目的は、国際的な「二重課税」を排除・軽減することにあります。
日本の居住者は、原則として国内および国外で得たすべての所得(全世界所得)に対して日本で納税義務があります。
一方で、国外の所得には、その所得が発生した国でも課税されるのが一般的です。
このままでは一つの所得に対して二重に税金が課されてしまいます。
この二重課税を解消するため、外国で納めた税額を日本の税額から控除し、国際的な取引における過重な税負担を調整する仕組みが「外国税額控除」です。
外国税額控除の対象となる外国所得税の範囲
外国税額控除の対象となるのは、外国の法令に基づき、個人や法人の所得を課税標準として課される税金です。
日本の所得税や法人税に相当するものが該当し、国税だけでなく、地方税(州税、市税など)も含まれる場合があります。
ただし、名称に「所得税」と含まれていなくても、実質的に所得に対する税であれば対象となり得ます。
外国税額控除の対象となる代表的な外国所得税は、以下の通りです。
- 海外に所有する不動産の賃貸収入に対して課される所得税
- 外国株式の配当金や預金の利子などに対して源泉徴収される税金
- 海外勤務によって得た給与に対して課される所得税
- 海外支店の所得に対して課される法人税
一方で、外国で納付した税金であっても、以下のようなものは外国税額控除の対象にはなりません。
- 所得を課税標準としない税(固定資産税や不動産取得税など)
- 罰則的な性質を持つ税金(延滞税や過少申告加算税など)
- 任意に還付請求できる税金
このように、外国で納付した全ての税金が控除対象となるわけではなく、「所得に対する税」であることが重要な基準となります。
ご自身の納付した税金が対象になるか不明な場合は、税理士などの専門家にご相談ください。
外国税額控除のメリット・デメリット

外国税額控除の適用には、メリットとデメリットが存在します。
外国税額控除のメリット
外国税額控除の最大のメリットは、国際的な二重課税を排除し、税負担を直接的に軽減できることです。
具体的には、外国で納付した所得税額を、日本で納めるべき所得税の額そのものから差し引く「税額控除」が適用されます。
これは、所得金額から差し引く「所得控除」よりも節税効果が非常に高くなります。
また、所得税から控除しきれない金額が生じた場合でも、一定の限度額内で翌年以降の住民税(都道府県民税・市区町村民税)からも控除することが可能です。
このように外国税額控除は、国外で得た所得がある個人や法人にとって、手元に残る資金を最大化できる有効な節税手段といえます。
外国税額控除のデメリット
外国税額控除の主なデメリットは、適用を受けるための手続きが煩雑である点です。
外国税額控除を利用するには、年末調整だけでは完結せず、必ず確定申告を行わなければなりません。
申告の際には、通常の確定申告書に加え「外国税額控除に関する明細書」などの専門的な書類を作成・添付する必要があります。
さらに、外国で納税したことを証明する書類(現地の申告書控えや納税証明書など)も必要となり、準備に手間がかかります。
また、納付した外国所得税の全額が必ず控除されるわけではなく、計算式に基づいた「控除限度額」が設定されている点にも注意が必要です。
この計算が複雑であり、より専門的な知識が求められます。
外国税額控除の計算方法

外国税額控除を適用できたとしても、外国に支払った税金の全額を日本の所得税から控除することができるわけではありません。
控除額には限度額が定められており、その計算方法は以下の通りです。
所得税の控除限度額 = その年の所得税額 × その年の国外所得金額 ÷ その年の所得総額
上記の計算式を基に、その年の所得総額が600万円、そのうち国外所得金額が100万円だった場合の控除限度額を計算すると、以下のようになります。
その年の所得税額 = 6,000,000円×20%(所得税率)- 427,500円(控除額)= 772,500円
所得税の控除限度額 = 772,500円 × 1,000,000円 ÷ 6,000,000円 = 128,750円
仮に外国で20万円の所得税を納めていたとしても、この年の日本の所得税から控除できるのは、上限である128,750円までです。
ただし、外国所得税が控除限度額を上回る場合、さらに復興特別所得税の税額からも控除を受けることが可能です。
復興特別所得税の控除額にも限度額が定められており、所得税の控除限度額と同じ計算式で求めることができます。
復興特別所得税の控除限度額 = その年の復興特別所得税額 × その年の国外所得金額 ÷ その年の所得総額
外国税額控除の確定申告のやり方

外国税額控除の適用を受けるためには、確定申告の際に必要書類を準備・作成して提出する必要があります。
具体的な流れは、以下の通りです。
- 必要書類を準備する
- 「外国税額控除に関する明細書」を作成する
- 確定申告書類を提出する
1.必要書類を準備する
外国税額控除を受けるためには、通常の確定申告書に加えて、外国で所得税を納めたことを証明するための書類を準備する必要があります。
以下の書類を準備しましょう。
- 確定申告書
- 外国税額控除に関する明細書
- 外国所得税が課されたことを証明する書類
- 外国所得に関する明細書
- 各年の控除限度額や納付した外国所得税を記載した書類
上記の書類のうち、1と2の書類は必ず必要になる書類です。
外国税額控除に関する明細書は、自身で作成する必要があります。
3と4の書類は、年間取引報告書で代替できる場合があります。
5の書類は、繰越控除を利用する場合に必要です。
2.「外国税額控除に関する明細書」を作成する
必要書類を準備したら、それを基に「外国税額控除に関する明細書」を作成します。
この明細書は、控除額の計算過程を示すための重要な書類です。
書類は一見複雑に思えますが、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」などを利用すれば、画面の指示に従って入力するだけで作成できます。
3.確定申告書類を提出する
確定申告書と外国税額控除に関する明細書が完成したら、管轄の税務署へ書類を提出しましょう。
税務署の窓口に持参または郵送するか、e-taxで電子申告することで提出できます。
確定申告書類の提出期間は、原則として所得が発生した翌年の2月16日~3月15日までです。
申告が遅れないように、計画的に準備を進めましょう。
外国税額控除の繰越控除とは
その年に納付した外国所得税額が控除限度額を超え、控除しきれなかった金額が発生した場合に、その超過額を翌年以降3年間にわたって繰り越して控除することが可能です。
逆に、納付した外国税額が控除限度額に満たない場合、その余裕分(控除余裕額)も翌年以降3年間繰り越せます。
これにより、年ごとの納税額の変動に対応し、より柔軟に二重課税の調整を図ることが可能になります。
繰越控除を利用する場合、確定申告の必要書類で紹介した「各年の控除限度額や納付した外国所得税を記載した書類」を準備して、確定申告書類と一緒に提出しましょう。
外国税額控除に関するよくある質問
外国税額控除に関するよくある質問とその回答を、以下にまとめます。
Q.外国株式の配当金を受け取りましたが、外国で源泉徴収された税金も控除の対象になりますか?
はい、控除の対象となります。
米国株など外国の株式から配当金を受け取る場合、多くはまず現地で税金が源泉徴収され、さらにその残額に対して日本国内でも源泉徴収されます。
この「二重課税」の状態を解消するために、外国で源泉徴収された税額分を外国税額控除として、日本の所得税から差し引くことが可能です。
Q.会社員で年末調整をしていますが、外国税額控除を受けるには確定申告が必須ですか?
外国税額控除は、年末調整の対象外です。
そのため、給与所得者の方で年末調整が完了している場合でも、外国税額控除の適用を受けるためには、ご自身で確定申告を行う必要があります。
Q.NISA口座で受け取った分配金も外国税額控除の対象になりますか?
NISA口座内で得た配当金や分配金、譲渡益は、日本国内の所得税・住民税が非課税です。
外国税額控除は、日本と外国での「二重課税」を調整するための制度であるため、もともと日本で課税されないNISA口座での利益については、二重課税の状態が発生しません。
したがって、NISA口座内で外国税が源泉徴収されていても、外国税額控除を適用して還付を受けることはできません。
外国税額控除を正しく活用しよう
外国税額控除は、国際的な二重課税を解消し、税負担を軽減する有効な制度です。
大きな節税効果が期待できる一方、適用には複雑な計算を伴う確定申告が必須となります。
この記事を参考に制度への理解を深め、対象となる方は計画的に申告準備を進めましょう。
判断に迷う場合や、より確実な手続きを望む方は、税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。
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