海外赴任や長期の海外滞在、あるいは海外への移住を検討する際に、「納税管理人」という言葉を耳にする機会が多くあると思います。
納税管理人とはどのような役割を担うのか、なぜ選任する必要があるのかなど、納税管理人について疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。

本記事では、納税管理人の役割や必要になるケース、申請手続きなど、納税管理人に関する基本的な情報をわかりやすく解説します。
大切な税金に関する手続きをスムーズに進めるために、納税管理人について正しく理解し、適切な対応ができるよう準備しておきましょう。

目次

  1. 納税管理人とは?その役割と制度の背景
  2. 納税管理人に依頼できる手続き
  3. 納税管理人が必要になるケース
    1. 海外在住中に日本で所得が発生している場合
    2. 海外在住中に日本で納税義務が発生した場合
    3. 国外転出時課税制度の課税対象となった場合
    4. 日本に支店や事業所を持たない外国企業の場合
  4. 納税管理人の要件・選任方法
  5. 納税管理人の申請・解任手続きについて
    1. 納税管理人選任届出書の記載内容
    2. 納税管理人の申請期限
    3. 納税管理人の解任方法
  6. 納税管理人を選定する際の注意点
    1. 信頼できる個人・法人に依頼する
    2. 税務知識の有無と業務範囲を確認する
    3. 納税管理人の負担を考慮する
  7. 納税管理人が納税を滞納した場合どうなる?
  8. 納税管理人はプロの税理士に依頼を
  9. 納税管理人を選任して確実な申告・納税を

納税管理人とは?その役割と制度の背景

納税管理人とは、海外転勤や長期滞在などにより日本に住所を有しなくなる納税義務者に代わって、納税に関する手続きを行う人のことです。
具体的には、税務署からの納税通知書等の書類受領、所得税や固定資産税などの税金の納付、還付金の受領などを行います。

この制度の背景には、納税義務者が海外にいる場合、税務当局が直接連絡を取ったり、納税を確実に履行させたりすることが困難になるという問題があります。
納税管理人がいることで、納税に関する連絡が円滑に行われ、納税義務者が海外にいても日本の税金を適切に納めることが可能です。

これにより、納税義務者は滞納のリスクを避け、安心して海外生活を送ることができるようになります。

納税管理人に依頼できる手続き

納税管理人には、具体的に以下のような手続きを依頼することが可能です。

  • 税務に関する書類の受領
  • 税金の納付
  • 還付金の受領
  • 税務署等からの問い合わせ対応
  • 納税義務者への連絡・報告

納税管理人に依頼できる主な手続きは、税務署からの書類の受け取り、税金の納付、そして還付金の受け取りなどです。
海外にいる納税義務者に代わって、税金に関する連絡や手続きをスムーズに進めることで、税金の滞納を防ぎます。

納税管理人が必要になるケース

納税管理人が必要になる具体的なケースとしては、以下のようなケースが挙げられます。

  • 海外在住中に日本で所得が発生している場合
  • 海外在住中に日本で納税義務が発生した場合
  • 国外転出時課税制度の課税対象となった場合
  • 日本に支店や事業所を持たない外国企業の場合

海外在住中に日本で所得が発生している場合

海外に住んでいても、日本国内で得た所得には日本の税金がかかることがあります。
例えば、日本国内に所有する不動産の賃貸収入や、日本の企業からの配当金、退職金などです。

また、日本での株式売買益なども課税対象となる場合があります。
これらの所得がある場合、確定申告を行い納税する必要がありますが、海外にいると税務署からの通知を受け取ったり、銀行振込などで納税手続きを行ったりすることが困難です。

そのため、納税管理人がこれらの手続きを代行し、適切に日本の税金を納める役割を担います。

海外在住中に日本で納税義務が発生した場合

海外に移住していたとしても、日本国内に不動産を所有していると固定資産税が課され、納税しなければなりません。
また、日本国内の財産を相続したり、贈与を受けたりしたことで、相続税や贈与税の納税義務が発生する場合もあります。

これらの税金は、日本の税法に基づいて申告・納税が必要ですが、海外からの手続きは煩雑です。
税金に関する書類の受領、納付手続きを円滑に進め、滞りなく納税を完了できるようにするためには、納税管理人を選定しておくことが必要です。

国外転出時課税制度の課税対象となった場合

日本の居住者が時価1億円以上の資産を保有したまま海外に転出する際、その保有資産の含み益に対して所得税が課税されます。
これが国外転出時課税制度(通称:出国税)です。

国外転出時課税制度の対象者は、納税管理人を選任することで、国外転出時課税制度の申告期限や納付期限が緩和されるだけでなく、納税猶予制度を活用することができます。
納税管理人は、納税猶予期間中の連絡窓口となり、将来的な納税義務の履行をサポートする役割を担います。

国外転出時課税制度に関する詳しい内容は、こちらの記事をご覧ください。

日本に支店や事業所を持たない外国企業の場合

日本国内に恒久的な支店や事業所を持たない外国企業であっても、日本国内で何らかの所得が発生する場合があります。

例えば、日本国内の顧客に対する役務提供や、不動産の賃貸、株式の売却などによって所得が生じるケースです。
このような場合、日本の法人税や消費税などの納税義務が発生することがあります。

しかし、日本に拠点がないため、税務署からの連絡や納税手続きを直接行うことが困難です。
そのため、納税管理人を選任し、日本での税務代理や納税義務の履行を委託することが必要となります。

納税管理人の要件・選任方法

納税管理人は、基本的に日本国内に住所や居所を持つ個人または法人であれば、それ以外に特に資格や条件は必要ありません。
そのため、親族や友人に依頼することも可能です。

納税管理人を選任する際は、まず該当の人物に納税管理人になってほしいということを相談したうえで同意をもらい、「納税管理人選任届出書」を作成します。
そして、納税管理人選任届出書を、納税地を管轄する税務署や自治体に提出したら、納税管理人の申請手続きは完了です。

納税管理人の申請・解任手続きについて

納税管理人の申請や解任の手続きに関する情報を、詳しく解説します。

納税管理人選任届出書の記載内容

納税管理人選任届出書には、納税義務者本人と、納税管理人として選任される人物の基本情報を記載する必要があります。
具体的には、以下のような項目です。

  • 納税地(住所地・居所地・事業所地等)
  • 電話番号
  • 氏名
  • 生年月日
  • 個人番号(納税者義務者のみ)
  • 職業
  • 選任理由
  • 出国予定日
  • 帰国予定日

特に事前に準備しておかなければ記載できないような情報はないため、書類作成はそれほど煩雑ではありません。
納税管理人選任届出書は、国税庁のWebサイトからダウンロードするか、税務署の窓口で直接受け取ることができます。

国税庁:所得税・消費税の納税管理人の選任届出又は解任届出手続

納税管理人の申請期限

納税管理人の申請手続きは、出国前に完了させておく必要があります。

万が一、書類に不備があった場合、再提出を求められるため、出国日ギリギリに提出することがないよう早めに申請手続きを進めましょう。
ただし、出国日までに申請手続きが完了していない場合でも、郵送で納税管理人選任届出書を税務署に提出すれば、手続きを進めることが可能です。

とはいえ、納税通知書等が発行されても手元に届かず、納税義務があることを把握できないリスクもあるため、早めに手続きを完了させましょう。

納税管理人の解任方法

納税義務者が帰国して自身で納税を行う場合や、何らかの事情で納税管理人を変更したい場合、あるいは納税管理人が辞任を希望する場合は、納税管理人を解任することが可能です。
納税管理人を解任する際は、納税管理人解任届出書を税務署や自治体に提出することで手続きが完了します。

新たな納税管理人を選任する場合は、解任届出書と同時に、新たな選任届出書を提出する必要があります。
手続きを怠ると、税務署からの連絡が滞るなどの問題が生じる可能性があるため、速やかに手続きを行いましょう。

国税庁:所得税・消費税の納税管理人の解任届出手続

納税管理人を選定する際の注意点

納税管理人を選定する際は、以下の点に注意して適切な人物を選びましょう。

  • 信頼できる個人・法人に依頼する
  • 税務知識の有無と業務範囲を確認する
  • 納税管理人の負担を配慮する

信頼できる個人・法人に依頼する

納税管理人を選ぶ上で、最も大切なのは信頼性です。
納税管理人は、税務署からの重要な書類を受け取ったり、納税義務者の代わりに税金を納めたり、還付金を受け取ったりと、お金や個人情報に関わる重要な役割を担います。

そのため、金銭トラブルや情報漏洩のリスクを避けるためにも、心から信頼できる家族や親族、親しい友人、または実績のある税理士事務所などの法人を選ぶようにしましょう。
特に海外滞在が長くなる場合、納税管理人との関係も長期に渡るため、安心して任せられる相手を選ぶことが不可欠です。

税務知識の有無と業務範囲を確認する

納税管理人自体に特別な資格は必要ありませんが、依頼したい業務の範囲によって、必要な知識レベルが変わってきます。
単に書類の受け取りや納税の代行だけであれば、必ずしも税務知識が豊富な必要はありません。

しかし、確定申告書の作成や税務相談、税務調査の対応を依頼したい場合は、税理士の独占業務となるため、税理士もしくは税理士法人グループを選任する必要があります。
資格のない個人や法人にこれらの業務を依頼すると、税理士法違反となる可能性もあるので、依頼したい内容を明確にし、それに合った専門性を持つ人を選びましょう。

納税管理人の負担を考慮する

納税管理人は、納税義務者の税務手続きを代行するため、少なからず時間や手間がかかります。

例えば、税務署や市区町村からの書類を管理したり、納付期限を把握して納税手続きを行ったり、納税義務者への連絡や報告をしたりといった業務が発生します。
そのため、納税管理人を選任する際は、依頼する業務内容と、それによって生じるであろう負担を具体的に説明し、相手の十分な理解と同意を得ることが不可欠です。

必要に応じて、郵送費などの実費や、お礼について事前に話し合い、合意しておくことで、お互いに気持ちよく協力関係を続けられます。

納税管理人が納税を滞納した場合どうなる?

納税管理人が正しく納税を行わず、滞納や過少申告などをした場合、納税義務者にペナルティが課されることがあります。

ペナルティ 発生条件 金額
無申告加算税 期限までに申告書を提出しなかった場合 納付すべき金額の5~30%
過少申告加算税 本来よりも過少な金額で申告をしていた場合 追加で納付する金額の10~15%
延滞税 納付期限までに納税を行わなかった場合 未納金額の2.4~8.7%
重加算税 課税内容を隠蔽・仮装した場合 納付すべき金額の35~40%

上記のペナルティは、納税義務者本人に課されるものであり、納税管理人に責任を問うことはできません。

親族や友人に軽い気持ちで依頼してしまうと、上記のようなトラブルが発生して関係性に亀裂が生じるリスクもあるため、納税管理人は慎重に選びましょう。

納税管理人はプロの税理士に依頼を

納税管理人には、税金に関する専門知識と正確な手続きが求められます。

特に、海外在住中に複雑な所得が発生したり、相続・贈与といった税務イベントが起きたりした場合、その対応は多岐に渡るため、税務知識が豊富な税理士に依頼しましょう。

プロである税理士に納税管理人を依頼すれば、税務に関する複雑な手続きを安心して任せられ、法改正にも適切に対応してくれます。

申告漏れや納税遅延によるペナルティのリスクを避け、大切な税金の手続きを確実に完了させるためにも、専門家である税理士へ依頼するのがおすすめです。

MACコンサルティンググループでは、国際的な税務に精通した専門チームが、納税管理人をはじめとしたあらゆる国際税務の対策・コンサルティングサービスを提供しています。

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納税管理人を選任して確実な申告・納税を

海外滞在中に必要となる納税管理人について詳しく解説しました。

納税管理人は、納税義務者に代わって税務書類の受領や納税を行う重要な存在です。

海外在住中に日本国内で所得が発生したり、不動産を所有していたりする場合、申告・納税は義務となり、怠るとペナルティが発生する可能性があります。

信頼できる親族や友人も納税管理人の候補となり得ますが、複雑な税務には専門家である税理士への依頼がおすすめです。 大切な税金に関する手続きを確実にこなし、安心して海外生活を送るためにも、納税管理人を選任して確実に申告・納税を行いましょう。