【消費税】「税込経理方式」と「税抜経理方式」の違いと実務への影響 

2025.06.12

税務

はじめに

皆さんは日々記帳をしていく中で消費税の経理方法について意識されたことはありますでしょうか。実は消費税の経理方法には『税込経理方式』と『税抜経理方式』の二つの方法があり、それぞれメリットやデメリットがあります。

今回のコラムでは『税込経理方式』と『税抜経理方式』の違いについて解説し、実務上どちらの経理方法を選択すべきなのかを紹介させていただきます。

 

 

 

税込経理方式、税抜経理方式ってなに??

そもそも『税込経理方式』や『税抜経理方式』とは何か、と疑問に思われた方も多いのではないでしょうか。

まずは、この二つの経理方式について解説していきます。

 

1.税込経理方式について

税込経理方式とは、「消費税を含んだ金額(税込金額)」で取引を記帳する会計処理方法です。お店で購入した際の金額をそのまま帳簿に記帳するイメージです。

 

 2.税抜経理方式について

税抜経理方式とは、「消費税を含まない金額(税抜金額)」で取引を記帳し、消費税部分を別に記帳する方法です。購入金額を本体部分と税金部分に分けて記帳するイメージです。

では実際の取引を仕訳に表して比較してみましょう。

 

【仕訳例】

・購入時の仕訳

《前提条件》300,000円(税抜)の備品を購入し、消費税10%で実際の支払額が330,000円だった場合

(単位:円)

借方

貸方

税込経理方式

(備品)330,000

(現金預金)330,000

税抜経理方式

(備品)300,000

(現金預金)330,000

 

(仮払消費税等)30,000

 

 

・決算時の仕訳

【ケース1】

1年間で受け取った消費税額が100,000円、1年間で支払った消費税額が80,000円で納付すべき消費税額が20,000円の場合

(単位:円)

借方

貸方

税込経理方式

(租税公課)20,000

(未払消費税等)20,000

税抜経理方式

(仮受消費税等)100,000

(仮払消費税等)80,000

 

 

(未払消費税等)20,000

 

【ケース2

1年間で受け取った消費税額が80,000円、1年間で支払った消費税額が100,000円で還付を受けることが出来る消費税額が20,000円の場合

(単位:円)

借方

貸方

税込経理方式

(未収消費税等)20,000

(雑収入)20,000

税抜経理方式

(仮受消費税等)80,000

(仮払消費税等)100,000

 

(未収消費税等)20,000

 

 

 

 

それぞれのメリット、デメリットはなに??

税込経理方式、税抜経理方式の違いについて理解していただけましたでしょうか?

次に本題であります、それぞれの方式のメリット、デメリットについて解説していきます。

 

1.税込経理方式

《メリット》

とにかく処理が簡単!!!

→税込経理方式のメリットとして「とにかく処理が簡単」という点が挙げられます。

取引の記帳をする際に本体部分と税金部分に分けて記帳する必要がないため、比較的簡便な経理方法となっています。

そのため、小規模な事業者は税込経理方式を選択されることが多いです。

また、簡易課税制度を採用されている事業者様にとっては、課税仕入れについて細かく把握する必要がないため、税込経理を採用することで事務的負担が軽減されます。

 

《デメリット》

期中の損益を正確につかむことができない

→税込経理方式のデメリットとして「期中の損益を正確につかむことができない」という点が挙げられます。

 例えば、上記決算時の仕訳の【ケース1】で、1年間の売上高が税込1,100,000(消費税100,000)、仕入高が税込880,000(消費税80,000)の場合、決算整理仕訳を計上前は、利益が220,000(1,100,000-880,000)となるが決算整理仕訳の計上後は、利益が200,000(1,100,000-880,000-20,000)となり、消費税分20,000円分の差額が発生するため、税金以外の部分でどれくらいの収益と費用が発生したのかをより細かく分析することが困難という特徴があります。

 

2.税抜経理方式

《メリット》

少額減価償却資産の特例の判定や交際費等の損金算入限度額の判定で有利になる!!

→税抜経理方式のメリットとして「少額減価償却資産の特例の判定や交際費等の損金算入限度額の判定で有利になる」という点が挙げられます。

 

・少額減価償却資産の特例

例えば備品(税込金額319,000)を購入した場合、税込経理方式の場合には税込金額である319,000円で判定するため少額減価償却資産の特例の規定を受けることが出来ず、固定資産として資産計上されてしまいます。

一方、税抜経理方式の場合、290,000(319,000円÷1.1)で判定するため、特例の規定を受けることができ、全額を損金に算入することが出来ます。

 

・交際費等の損金算入限度額

()10,000円基準

交際費については、1人当たり10,000円以下の飲食費は交際費に該当しません。

例えば、4人で42,900(税込金額)支出した場合、経理方法によって判定が異なります。税込経理方式の場合には、1人当たり10,725(42,900円÷4人)となるため、交際費に該当します。

一方、税抜経理方式の場合には、1人当たり9,750(42,900円÷4人÷1.1)となり、交際費に該当しません。

このように、経理方法の選択によって、交際費に該当するかどうかが変わる点に注意が必要です。

なお、1人当たり10,000円を超える飲食費やその他の交際費については、次に説明する「定額控除限度額(8,000,000)」で損金算入が認められています。

 

()定額控除限度額(8,000,000)

支出した交際費のうち年間8,000,000円までは損金に算入することが出来ます。

例えば1年間で8,690,000(税込金額)支出した場合、税込経理方式の場合には同額の8,690,000円で判定されるため、超過する690,000(8,690,000円―8,000,000)については損金に算入することが出来ません。

一方、税抜経理方式の場合には、税抜金額である7,900,000(8,690,000円÷1.1)で判定されるため、8,000,000円の限度額に収まり全額を損金に算入することが出来ます。

 

《デメリット》

期中の手間がかかる!!!

→税抜経理方式のデメリットとして「期中の手間がかかる」という点が挙げられます。

取引の都度、本体部分と消費税部分に分けて記帳しなければならないため、作業量が2倍になり、事務的負担がとにかく大きいです。

 

 

 

どちらの経理方法がいいのか???

ここまで見てくださった皆様は結局どちらの経理方法がいいのか??とお感じになるかと思いますが、実は事業者の状況により答えが異なります。

 

税込経理方式がおすすめの事業者

簡易課税制度を利用されている事業者

過去の欠損金を利用したいかつ大きな設備投資を予定されている事業者

→大きな設備投資を予定されている場合仕入税額控除を多く受けることが出来るため、消費税の還付を受ける場合があります。

税込経理方式の場合、消費税の還付金は雑収入として処理することとなりその分所得が増加します。

所得が増加しても過去の欠損金を利用することができるため、税金は増加しません。

欠損金を有効に活用し、減価償却費として損金を将来へ繰り延べる効果があります。

 ※過年度より消費税の納税義務がない事業者(免税事業者)は税抜経理方式が認められていないため、税込経理方式が強制されます。

 

税抜経理方式がおすすめの事業者

1円でも多く少額減価償却資産の特例や交際費の特例の規定を受けたい事業者

期中の損益を適切に把握し事業を進めていきたい事業者

消費税の還付を受けることが多く利益をなるべく圧縮したい事業者 など

→税抜経理方式の場合、消費税の還付金は『未収消費税等』として資産に計上されるため、税込経理方式と異なり、還付金を受けたとしても所得に影響をあたえることがないため、還付は受けたいが所得の増加を懸念される事業者におすすめです。

 

 

 

最後に

いかがだったでしょうか。経理方法について明確な答えがない一方で、経理方法の選択により税金面に影響が出てくることがあります。

私たちMACコンサルタンツでは、そんな答えがない問題についてもお客様に寄り添い、お客様に適した方法を日々提供してまいります。

今後もお困りのことがございましたら是非弊社にご相談ください。

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