近年、証券会社のサービスが充実したことで、個人でも手軽に外国株式への投資が可能になりました。
米国株をはじめとする外国株式を保有する方が増える中、相続が発生した際の手続きや税務について不安を抱える方も少なくありません。

外国株式の相続では、日本の相続税だけでなく、現地国での課税や複雑な名義変更手続きが絡むため、国内株式とは異なる注意点が数多く存在します。
本記事では、国際資産税に精通した専門家の視点から、外国株式の相続税評価方法、手続きの流れ、二重課税への対策、そして実務で頻発する失敗事例まで、包括的に解説します。

外国株式の相続で知っておくべき基礎知識

外国株式も日本の相続税の課税対象

外国株式を相続した場合でも、相続人が日本に居住している限り、原則として日本の相続税の課税対象となります。
日本の相続税法は相続人の住所地を基準に課税範囲が決定される仕組みを採用しているためです。

たとえば、被相続人が米国株式や欧州株式を保有していた場合、それらの株式も日本国内にある預金や不動産と同様に、相続財産として申告しなければなりません。
株式が保管されている証券会社が国外にあったとしても、申告義務は変わりません。

納税義務の判定と10年ルール

国際相続において重要なのが「10年ルール」と呼ばれる納税義務の判定基準です。
相続人が日本国内に住所を有している場合は、被相続人の居住地に関わらず、全世界の財産が課税対象となる「無制限納税義務者」に該当します。

一方、相続人と被相続人の双方が、相続開始前10年以内に日本国内に住所を有していなかった場合のみ、日本国内の財産だけが課税対象となる「制限納税義務者」となります。
つまり、国外居住が10年未満の場合は、外国株式を含む国外財産にも日本の相続税が課される仕組みです。

二重課税のリスクと外国税額控除

外国株式の相続において特に注意すべきなのが、日本と外国の両方で課税される「二重課税」のリスクです。
米国のように遺産税(Estate Tax)を課す国では、日本の相続税とは別に現地での税負担が発生する可能性があります。

この二重課税を調整するために設けられているのが「外国税額控除」という制度です。
外国で支払った相続税相当額を、日本の相続税額から一定の範囲で控除することができます。
ただし、控除額には上限があるため、両国での税負担を完全にゼロにできるわけではありません。

外国株式の相続税評価方法

上場株式の評価方法(4つの価格から最低額を選択)

外国の証券取引所に上場されている株式は、日本国内の上場株式と同じ方法で評価します。
これは、外国の上場株式も市場価格が明らかになっているためです。

具体的には、以下の4つの価額のうち、最も低い価額を相続税評価額として採用します。

  • 相続開始日(通常は被相続人が亡くなった日)の最終価格(終値)
  • 相続開始日の属する月の毎日の最終価格の平均額
  • 相続開始日の属する月の前月の毎日の最終価格の平均額
  • 相続開始日の属する月の前々月の毎日の最終価格の平均額

被相続人が複数の銘柄を保有していた場合、銘柄ごとに最も低い価額を選択できます。
たとえば、Apple株は相続開始日の終値を採用し、NVIDIA株は前月の平均額を採用するといった形で、それぞれ有利な評価方法を選ぶことが可能です。

非上場株式の評価方法(純資産価額方式)

外国の非上場株式を相続した場合は、基本的に「純資産価額方式」で評価します。
純資産価額方式とは、会社の資産から負債を差し引いた純資産額をもとに、1株あたりの価値を算出する方法です。

非上場株式の評価では、会社の財務諸表を入手し、資産・負債の帳簿価額と相続税評価額の差額について法人税相当額を控除した後の金額を基準とします。
現地の会計基準で作成された財務諸表を日本の評価基準に置き換える必要があるため、専門家のサポートが不可欠です。

為替換算レート(TTB)の適用ルール

外国株式の評価額は現地通貨で表示されているため、日本円に換算する必要があります。
相続税法上の邦貨換算には、原則として「対顧客直物電信買相場(TTB)」を使用します。

TTBとは、金融機関が顧客から外貨を買い取る際の為替換算レートのことです。
相続人の取引金融機関が公表する、相続開始日における最終のTTBで換算を行います。

相続開始日が土日祝日などで為替相場がない場合は、相続開始日より前で最も近い日の最終の為替換算レートを使用します。
相続人が複数の金融機関と取引している場合、最も有利な(評価額が低くなる)為替換算レートを選択することが可能です。

外国株式の相続手続きと名義変更の流れ

国内証券会社に保管されている場合

外国株式が国内の証券会社(SBI証券、楽天証券、マネックス証券など)に保管されている場合、手続きは比較的スムーズに進みます。
国内証券会社では日本語での対応が可能であり、相続手続きに関する案内も充実しているためです。

相続が発生したら、まず証券会社に連絡を入れ、被相続人の口座を凍結してもらいます。
その後、証券会社が指定する相続手続き書類(相続届、遺産分割協議書、戸籍謄本、印鑑登録証明書など)を提出します。
書類に不備がなければ、通常1〜2ヶ月程度で相続人名義の口座へ株式を移管できます。

海外証券会社に保管されている場合

一方、E*TRADE(イー・トレード)やFidelity(フィデリティ)などの米国系証券会社に口座がある場合、手続きは大幅に複雑化します。
海外の証券会社では、日本で準備できる書類だけでなく、現地の法律に基づいた追加書類の提出を求められることが一般的です。

相続が発生したら、最初に行うべきは海外の金融機関への連絡です。
被相続人が亡くなった事実を伝え、口座の状況を確認する必要があります。
多くの金融機関では、名義人の死亡を知った時点で口座を凍結し、勝手な引き出しや振込ができないようにします。

金融機関への連絡は電話やメールで行うのが一般的ですが、英語でのコミュニケーションが必要になるケースがほとんどです。
連絡の際には、被相続人の氏名、口座番号、死亡日、そして相続人であることを証明できる関係性を伝えます。
この時点で、相続手続きに必要な書類のリストを入手しておくと、後の手続きがスムーズに進みます。

プロベート手続きが必要なケースと対応策

米国や英国など英米法系の国では、一定額以上の資産を相続する際に「プロベート(検認手続き)」と呼ばれる裁判所の手続きが必要になります。
プロベートとは、遺言書の有効性を確認し、遺産を法的に管理・分配する制度です。

プロベート手続きは完了までに1年〜3年程度の長期間を要し、その間は口座が完全に凍結されるため、株式の売却や現金化ができません。
さらに、弁護士費用や裁判所費用として遺産額の数パーセントがコストとしてかかります。

ここで深刻な問題となるのが、日本の相続税の納付期限とのズレです。
日本の相続税は、亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に原則現金で納付しなければなりませんが、プロベート手続きが終わっていないため国外の株式を売却できず、納税資金の確保に窮するケースが頻発しています。

プロベートを回避する方法としては、

  • 生前に信託(Living Trust)を設定する
  • 共同名義(Joint Tenancy)にする
  • 死亡時譲渡証書(TODD)を活用する

などの対策があります。
すでに相続が発生している場合は、国内の他の資産や自己資金で納税するか、金融機関からの借入を検討する必要があります。

米国株式の相続で注意すべき遺産税(Estate Tax)

Form 706-NAの提出が必要になるケース

米国非居住者が米国内に一定額以上の資産を保有したまま亡くなった場合、Form 706-NAという遺産税申告書の提出が必要になります。
日本居住者であっても、米国内に所在する株式や不動産の評価額が6万ドルを超える場合、この申告義務が発生します。

Form 706-NAの提出期限は、被相続人の死亡日から9ヶ月以内です。
日本の相続税申告期限(10ヶ月)よりも1ヶ月短いため、両国への同時並行での対応が求められます。

日米租税条約による二重課税の調整

日本と米国の間には相続税条約が締結されており、二重課税を防ぐための調整規定が設けられています。
具体的には、米国で遺産税が課された財産については、日本の相続税から外国税額控除を適用できます。

ただし、控除額には上限があり、以下の計算式で算出される金額が控除限度額となります。

控除限度額 = 日本の相続税額 × (国外財産の価額 ÷ 相続人の相続財産総額)

実際に米国で支払った遺産税額と、上記の控除限度額を比較し、いずれか低い方の金額が控除されます。
そのため、米国での税負担が大きい場合でも、全額を日本の相続税から控除できるわけではありません。

実務での失敗事例と対策

実務上、外国株式の相続で最も多い失敗事例が「プロベート手続きの長期化により、日本の相続税納付期限に間に合わない」というケースです。
米国株式を多額に保有していたものの、プロベート手続きに2年以上を要し、株式の売却ができないまま日本の納税期限を迎えてしまい、やむなく自己資金で立て替えたという事例があります。

このような事態を避けるためには、相続発生前に以下の対策を取ることが重要です。

  • 生前に信託を設定し、プロベートを回避する仕組みを構築する
  • 国内にも一定の納税資金を確保しておく
  • 証券会社の口座がどこにあるか、家族に明確に伝えておく
  • 専門家に事前相談し、想定される税負担と手続きの流れを把握する

RSU・SO・ESPPなど株式報酬制度の相続

株式報酬制度の種類と相続時の評価

外資系企業やグローバル企業に勤務していた被相続人の場合、RSU(譲渡制限付株式ユニット)、SO(ストックオプション)、ESPP(従業員株式購入制度)といった株式報酬を保有しているケースがあります。
これらの株式報酬も相続財産として評価する必要があります。

RSUは、一定期間経過後に株式として受け取れる権利であり、相続開始時点で権利が確定している(ベスト済み)場合は、その時点の株価で評価します。
SOは、将来一定の価格で株式を購入できる権利ですが、相続開始時点で権利行使可能な状態であれば、株価と権利行使価額の差額で評価します。
ESPPは、従業員が割安価格で自社株を購入できる制度であり、相続開始時点で保有している株式は通常の上場株式として評価します。

海外証券口座における株式報酬の手続き

株式報酬は、多くの場合E*TRADEやFidelityなどの米国証券会社の口座で管理されています。
相続手続きにあたっては、通常の株式とは異なる書類の提出を求められることがあります。

特に、勤務先企業との契約内容や、株式報酬の付与契約書(Grant Agreement)の提出を求められるケースが多く、これらの書類を事前に入手しておく必要があります。
また、未ベストのRSUについては、勤務先企業の規定により相続時に失効する場合もあるため、人事部門への確認が不可欠です。

外資系企業勤務者が注意すべきポイント

外資系企業に勤務していた方の相続では、株式報酬の存在自体が家族に知られていないケースが少なくありません。
給与明細や年末調整の書類だけでは株式報酬の全容が把握しづらいため、生前に証券口座の情報を家族と共有しておくことが重要です。

また、株式報酬は付与時期や権利確定時期によって評価方法が異なるため、専門家による正確な評価が必要です。
誤った評価で申告した場合、後日税務調査で指摘を受けるリスクがあります。

外国株式の相続税申告で押さえるべきポイント

相続税申告書第11表への記載方法

外国株式を含む相続税申告では、「相続税申告書第11表(相続税がかかる財産の明細書)」に詳細を記載します。
令和6年1月に様式が改訂され、株式ごとにより詳細な情報を記載する形式に変更されました。

第11表には、銘柄名、証券コード、保有株数、1株あたりの評価額(外貨建て)、為替換算レート、日本円換算後の評価額を記載します。
評価額の算出根拠として、証券会社が発行する残高証明書や取引履歴、株価の時系列データなどを添付資料として保管しておく必要があります。

必要書類と証拠資料の準備

外国株式の相続税申告では、以下の書類を準備する必要があります。

  • 証券会社発行の残高証明書(相続開始日時点)
  • 株価の時系列データ(Yahoo!ファイナンスなどから入手)
  • 為替換算レートの証明資料(取引金融機関のウェブサイトなど)
  • 外国税額控除を受ける場合は、現地での納税証明書
  • プロベート手続きを経た場合は、裁判所発行の関連書類

これらの書類は英文で発行されることが多いため、必要に応じて日本語訳を添付します。
特に、税務署から問い合わせがあった際にスムーズに説明できるよう、証拠資料は系統立てて整理しておくことが重要です。

申告期限とプロベートとの兼ね合い

日本の相続税申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。
一方、プロベート手続きは完了までに1年以上かかることも珍しくありません。

この期限のズレが原因で、外国株式の評価額は確定しているものの、現金化や売却ができず納税資金が不足するという事態が発生します。
実務上の対応策としては、以下のような方法が考えられます。

  • 国内資産や自己資金で納税する
  • 金融機関から一時的に借入を行う
  • 延納制度を活用し、分割払いとする
  • 物納を検討する(ただし外国株式の物納は原則不可)

いずれの方法を選択する場合でも、早期に専門家へ相談し、資金繰りの計画を立てることが不可欠です。

外国株式の相続は国際資産税の専門家にご相談を

外国株式の相続は、評価方法の複雑さ、二重課税のリスク、プロベート手続きといった国際相続特有の課題が多数存在します。
日本の相続税法だけでなく、資産が所在する国の法律や税制、さらには租税条約の理解も求められるため、専門的な知識と実務経験が不可欠です。

MACコンサルティンググループでは、年間1,000件を超える国際相続の相談実績があり、複雑な国際相続をワンストップでサポートしています。
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