海外に資産をお持ちの方や国際結婚されている方にとって、相続手続きは国内だけの問題ではありません。
日本語の遺言書だけでは、海外資産の相続手続きで思わぬトラブルや高額な費用が発生するケースが増えています。
特に米国や英国などでは、資産の保有状況等によってプロベートなどの手続きが必要となり、相続手続きに時間や費用を要する場合があります。
本記事では、年間で数多くの国際相続案件を扱うMACコンサルティンググループが、英文遺言書の作成方法と実務上の注意点を徹底解説します。
英文遺言書を正しく作成することで、相続手続きの時間とコストを大幅に削減し、ご家族の負担を軽減できます。
目次
英文遺言書の作成が必要なケース

海外に不動産や金融資産を保有している方は、英文遺言書の作成を推奨します。
日本語の遺言書だけでは、海外での相続手続きにおいて現地の裁判所や金融機関が受け付けないケースが多発しています。
特に以下のような方は英文遺言書の作成を検討することが重要です。
海外資産を保有している方
米国、英国、カナダ、オーストラリアなどに不動産や銀行口座、証券口座を持っている場合、現地法に基づく遺言書を準備することが効果的です。
日本語の遺言書を翻訳・認証する方法もありますが、手続きに数ヶ月かかり、費用も数十万円に上ります。
最初から英文遺言書を作成しておけば、相続発生時にスムーズに手続きが進みます。
国際結婚している方
配偶者が外国籍である場合や、海外に資産・居住関係がある場合には、関係国の相続制度を確認することが重要です。
特に配偶者の母国に資産がある場合や、将来的に移住する可能性がある場合は、英文遺言書の準備が重要です。
日本語が読めない配偶者にとっても、英文遺言書があれば内容を正確に理解でき、相続後のトラブルを防げます。
海外在住の相続人がいる方
相続人が海外に住んでいる場合、現地での手続きが必要になることがあります。
英文遺言書があれば、現地の弁護士や金融機関とのやり取りがスムーズになり、手続き期間を短縮できます。
特に米国在住の相続人がいる場合、プロベート手続きを回避するために英文遺言書が有効です。
日本語の遺言書は海外で有効か
日本で作成した遺言書でも、海外で有効と認められる場合があります。
日本の「遺言の方式の準拠法に関する法律」などにより、一定の要件を満たせば、1つの遺言書で複数国の資産を対象とすることも可能です。
ただし、国や地域によって取扱いが異なるため、事前に専門家へ確認することが重要です。
翻訳・認証の手間とコスト
日本語の遺言書を海外で使用する場合、提出先の国や機関によっては、英訳や翻訳証明のほか、公印確認・アポスティーユ、領事認証などの手続きを求められることがあります。
こうした翻訳や認証が必要となる場合には、追加の費用や時間がかかることがあります。
さらに翻訳の正確性を巡ってトラブルになるケースもあり、相続手続きが大幅に遅れることがあります。
現地法との整合性の問題
日本の遺言書が現地法の要件を満たしていないと、無効とされるリスクがあります。
例えば米国の一部の州では、遺言書に証人の署名が必要ですが、日本の自筆証書遺言にはこの要件がありません。
英文遺言書を現地法に基づいて作成することで、こうしたリスクを回避できます。
英文遺言書の種類と特徴
海外、特に米国で用いられる遺言書・信託には主に3つの形式があり、資産状況や目的に応じて選択します。
海外では遺言書の形式が多様で、それぞれに特徴とメリットがあります。
自分の資産状況や相続の目的に合わせて、最適な形式を選ぶことが重要です。
Will(遺言書)
最も一般的な形式で、日本の遺言書に相当します。
比較的作成しやすく、弁護士などの専門家に依頼して作成することもできます。
ただしWillだけでは、プロベート手続きを回避できない点に注意が必要です。
Living Trust(生前信託)
生前に信託を設定し、資産を信託に移転することで、プロベートを回避できる仕組みです。
米国では相続税対策とプロベート回避のために広く利用されています。
信託の設定には専門家への依頼が必要となることもあり、内容によっては一定の費用や手続きが必要となります。
Living Trustを設定すれば、相続発生後、プロベート手続きを経ずに信託財産を受益者に分配でき、時間とコストを大幅に削減できます。
Pour-Over Will
Living Trustと併用する遺言書で、信託に移転し忘れた資産を信託に注ぎ込む(Pour Over)内容を記載します。
Living Trustへの移転から漏れていた資産についても、最終的に信託の定めに従って承継できるようにするための補完的な役割があります。
Living Trustとセットで作成するのが一般的です。
英文遺言書の基本的な構成要素

英文遺言書には記載すべき事項があり、これらを漏れなく記載する必要があります。
英文遺言書は法的文書のため、決められた様式と要件を満たさなければ無効になるリスクがあります。
英文遺言書に一般的に盛り込まれる主な項目として、次のようなものがあります。
冒頭部分(Declaration)
遺言者の氏名、住所、遺言書作成の意思を明記します。
遺言執行者の指定(Executor)
遺言の内容を実行する執行者を指定します。
執行者は信頼できる人物を選び、予備の執行者も指定しておくと安心です。
資産の分配方法(Distribution of Assets)
誰にどの資産を相続させるかを具体的に記載します。
不動産は所在地と登記情報を明記し、金融資産は口座番号や金融機関名を記載します。
署名と証人(Signature and Witnesses)
国・地域や遺言書の形式によっては、遺言者の署名に加えて証人の立会いや署名が求められます。
証人は相続人以外の第三者を選び、遺言書の内容を見せずに署名してもらうことができます。
また、公証人による認証が必要となる場合もあります。
英文遺言書の作成方法と費用

英文遺言書の作成方法は主に3つあり、それぞれメリットとデメリットがあります。
作成方法によって費用や安全性が大きく異なるため、自分の状況に合った方法を選択してください。
専門家に依頼する方法
国際相続や現地の相続法に詳しい弁護士等の専門家へ依頼する方法です。
現地の法制度や資産の状況を踏まえながら、遺言書の内容や形式について助言を受けることができます。
依頼内容や資産の状況によって、必要となる手続きや費用、作成に要する期間は異なります。
オンラインサービスを利用する方法
米国ではLegalZoomやRocket Lawyerなどのオンラインサービスで、テンプレートを使って遺言書を作成できます。
費用は数千円~数万円と安価ですが、専門家のチェックがないため、不備があるリスクがあります。
シンプルな資産構成の場合には選択肢になりますが、複雑な国際相続には不向きです。
自分で作成する方法
費用を抑えたい場合は、テンプレートを使って自分で作成することも可能です。
ただし法的要件を満たさない場合、遺言書が無効になるリスクが高いため、専門家のレビューを受けることを強く推奨します。
日本語遺言書と英文遺言書の併用実務
日本と海外の両方に資産がある場合、日本語と英文の遺言書を併用することが有効です。
それぞれの遺言書で管轄する資産を明確に分けることで、相続手続きをスムーズに進められます。
ただし、複数の遺言書を作成する場合は、互いの内容が抵触しないよう慎重な調整が必要です。
管轄の明確化
日本語遺言書では日本国内の資産のみを対象とし、英文遺言書では海外資産のみを対象とすることを明記します。
この記載により、2つの遺言書が矛盾しないように調整できます。
作成日の管理
後から作成した遺言書の内容や以前の遺言を撤回する条項によって、先に作成した遺言書の全部または一部に影響する可能性があるため、作成日の管理が重要です。
両方の遺言書に「この遺言書は特定の資産のみを対象とし、他の遺言書を取り消すものではない」旨を明記してください。
遺言執行者の連携
日本側と海外側の遺言執行者が連携できるよう、互いの連絡先を遺言書に記載しておくと良いでしょう。
相続発生時に両者が情報共有することで、手続きの重複や漏れを防げます。
国別の注意点と実務対応

国によって遺言書の要件やプロベート制度が大きく異なるため、国別の対策が必要です。
主要な国ごとの特徴と実務上の対応策を解説します。
米国の場合
米国では州ごとに遺言法が異なるため、資産がある州の法律に準拠した遺言書を作成することが有効です。
カリフォルニア州やフロリダ州では、Living Trustの活用がプロベート回避の標準的な手法です。
また、日本在住の方(米国非居住者)が米国に持つ資産には米国遺産税(Estate Tax)が課される可能性がありますが、その基礎控除額はわずか6万ドルと少額なため、課税対象となるリスクが高くなります。
ただし、日米租税条約に基づく手続きを行えば控除枠が拡大され、税負担を軽減できる可能性があります。
英国の場合
英国では遺言書がない場合、Intestacy Rulesという法定相続ルールが適用されます。
配偶者と子供がいる場合、配偶者がまず一定額の法定遺産と所持品を受け取り、残額を配偶者と子供で分割することになるため、配偶者に全財産を残したい場合は必ず遺言書が必要です。
また、遺言書がある場合には、原則として遺言執行者がプロベートの申請を行い、その後、遺産の管理や分配などの手続きを進めます。
手続きに要する期間は、遺産の内容や相続関係などによって異なります。
香港・シンガポールの場合
香港とシンガポールは英国法の影響を受けており、遺言制度も類似しています。
両国ともプロベート手続きが必要ですが、遺言書があれば比較的スムーズに進みます。
現地の銀行口座や不動産を持っている場合は、現地の弁護士に相談して英文遺言書を作成することを推奨します。
英文遺言書作成で失敗しないポイント
英文遺言書の作成で失敗すると、相続手続きが停滞し、相続人に大きな負担がかかります。
以下のポイントを押さえて、確実な遺言書を作成してください。
専門家の確認を受ける
自分で作成した場合でも、必ず国際相続に詳しい弁護士等の専門家の確認を受けてください。
法的要件の不備や記載漏れがあると、遺言書が無効になるリスクがあります。
専門家に確認を依頼する場合には、内容に応じて費用や時間がかかりますが、後のトラブルを防ぐための必要経費です。
定期的な見直しを行う
資産状況や家族構成が変わった場合は、遺言書を見直して更新してください。
特に海外資産を新たに取得した場合や、相続人が増減した場合は、すぐに遺言書を改訂する必要があります。
少なくとも3~5年に一度は内容を確認し、必要に応じて修正してください。
原本の保管場所を明確にする
遺言書の原本は、遺言執行者や信頼できる家族に保管場所を伝えておいてください。
専門家の事務所や銀行の貸金庫に保管するのも安全な方法です。
相続発生時に遺言書が見つからないと、せっかく作成した遺言書が無駄になってしまいます。
英文遺言書作成の失敗例と対策

国際相続の現場では、遺言書の不備によるトラブルが後を絶ちません。
例を用いながら、その対策を解説いたします。
事例1:証人の要件を満たしていなかった
米国カリフォルニア州に不動産を持つAさんは、自分で英文遺言書を作成しましたが、証人が相続人の1人だったため、遺言書が無効とされました。
証人は相続人以外の第三者を選ぶ必要があります。
対策として、弁護士事務所の従業員など、遺言の内容に利害関係のない第三者に証人を依頼することが考えられます。
事例2:日本語遺言書と矛盾していた
Bさんは日本語と英文の両方の遺言書を作成しましたが、後から作成した英文遺言書に「全ての遺言書を取り消す」と記載したため、日本語遺言書が無効になってしまいました。
両方の遺言書に財産の範囲を明記し、互いに矛盾しないようにすることが重要です。
事例3:資産の記載が不十分だった
Cさんの英文遺言書には「全ての海外資産を配偶者に相続させる」とだけ記載されていましたが、具体的な資産の所在地や口座番号がなかったため、相続手続きに時間がかかりました。
資産は具体的に特定して記載することで、相続手続きをスムーズに進められます。
英文遺言書作成は専門家に相談を
英文遺言書の作成は、国際相続の専門家に相談することが成功の鍵です。
自己流で作成すると、法的要件の不備や記載漏れにより、相続時に大きなトラブルになるリスクがあります。
MACコンサルティンググループでは、年間で数多くの国際相続案件を扱い、日本語と英文の遺言書作成から相続税申告まで、ワンストップでサポートしています。
海外資産をお持ちの方、国際結婚されている方は、ぜひ一度ご相談ください。
